まっとうな生徒ではなかったくせに
捨てきれない 制服時代の思ひ出
おいでませ 諸君
ここは束の間 若き魂が交錯する
人生の踊り場だ
主題:学校
さあ行こうと 僕の手を引く君は
何時までも少年のままで
西日の射す教室で
君と僕の時間が深海に沈む
つないだ小指の約束は
何時まで保つか わからないけど
――――学級活動って、何したっけ?
……… 一番好きだった給食はどんな味だった?
あの時僕を叱った 先生の名前は?
散々歌わされた校歌も 厭でたまらなかった日直の仕事も
席替えのときめきも 下校に流れていたありふれたメロディも
雨風に晒されて 落剥してゆくけれど
ヴァランスを喪って堕ちた青空
陽だまりの心地よさに
なんかどうでも良くなって
真昼の星座を一人 辿ってみたりして。
―――お前さァ、煙草やめろよ
空がけむたくなるだろう?
フェンスにもたれたあいつは
僕の戯言なんて 聞かないふり
その制服を着ていない僕は もう君たちとは違うのですね
今はただ 緑色のフェンスの周りを 廻ることしか出来なくて
煌めく飛沫 舞い上がる歓声
鼻腔を突く塩素の臭い ぬるく滴る水溜り
パラソルの下で 物憂く空を仰いでいたひと
御手をお貸しください 恐れることなどないから
この監獄のような楽園を
二人だけのものにする魔法をかけてあげる
反転したパノラマに 水の網が揺らめく
左手に君のぬくもり
寒空の下 落ち葉が濁った水の底に沈んでゆく
冬枯れのプールサイド
共に刻んだ机の文字は
今も未だ残っていますか?
黄昏に染まる静寂
大人びた珈琲の香り
充足する時間に 喘いだ僕は
狂気を孕んで 眠りにつく
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ヴェートーベンの肖像は 微笑ったのだらうか 黒光りするピアノは 一人で 本当は誰も知らないのさ 不思議は憐れな道化役 |
君が紡いだ鍵盤の 思い知らずや 真白き頬に たゆとう微笑 我が見知らぬ 其の微笑 さても哀しき ジムノペディ |
午睡みにも似た 記憶の中で
君だけはどうか 駆けてゆかないで